近年のユーコンは失業率の低さや環境の良さなどから、長くこの地に住みたいと考えている人が増えています。特にここ数年その増え方は顕著で、それに伴い様々なライフイベントをユーコンで迎えるという日本人も増えてきました。
しかしそういったライフイベントに対し日本語で相談することができる環境がユーコンではまだまだ整っていないのが現状です。今回の記事ではライフイベントの中でも不動産購入に焦点を当て、その中でもまず始めに知っておきたい住宅ローンについてアルバータ州カルガリー在住でモゲージアドバイザーとして活躍されているウェネンジャー美和さん(以下、美和さん)にお話を伺いました。
カナダで家が欲しいと思ったら
ーカナダで家を購入するにあたりまずは住宅ローンについて伺っていきたいと思いますが、第一段階として必ず頭に入れておくべきことは何でしょうか?
美和さん)
まず知っておきたいこととしてカナダ住宅ローン(Mortgage)の頭金(Down Payment)に関する基礎知識をお話しさせていただきます。カナダではモゲージ保証料(Mortgage Default Insurance)を払う事によって、カナダ市民・移民は最低5%の頭金で物件の購入が可能です。モゲージ保証料とは、「金融機関」と債務を保証する「保証会社」との間で取り交わされる保証関係のことです。ローンを借りた人が保証会社に保証料を払う事によって、返済不可能になった際の損失を保証会社が金融機関に払います。一方でローンの借入主が死亡すると、保険によりローン返済がゼロになるのは、モゲージ生命保険(Mortgage Life Insurance)です。モゲージ保証料とモゲージ生命保険は混同されがちですが、似て非なるものなので注意が必要です。
ー頭金を多く用意できない場合でもモゲージ保証料を払うことで頭金を低く抑えられるのですね。ではそのモゲージ保証料について以下で詳しく解説していただきます。
美和さん)
準備できる頭金が20%に満たない場合のモゲージ保証料のレートは下記の通りになります。$300,000の住宅ローンに対するモゲージ保証料
頭金:5%-9.99% → モゲージ保証料:4.00%($12,000)
頭金:10%-14.99% → モゲージ保証料:3.10%($9,300)
頭金:15%-19.99% → モゲージ保証料:2.80%($8,400)※$500,000以上$1,000,000未満の不動産購入の場合、頭金の最低額が$500,000以上の部分が5%から10%へ引き上げられます。例:$750,000の物件を購入する場合、$500,000までは5%頭金($25,000)+$250,000に対しては10%の頭金($25,000)=$50,000が最低必要となります。
ー少しずつですがカナダにおける住宅ローンの頭金がどう言った仕組みになっているのかが分かってきました。
頭金はどれくらいあればいい?
ーはじめに伺った時に頭金は最低5%が必要とおっしゃっていましたが、購入する物件やビザステータスによってその違いはありますか?
美和さん)
もちろんそれぞれの購入したい物件や、個人のクレジットスコア、ビザステータス等によって必要となる頭金の金額が変わってきます。例えば購入希望者がワークビザだった場合、保証会社によって頭金は最低の5%で良い場合もありますが、カナダ連邦公共企業であるCMHCは10%必要とします。そして、頭金が35%未満の場合、保証料がかかります。またワークビザは購入日から少なくとも半年後まで有効でなくてはいけないので、オファーをして3カ月後に購入の場合は9カ月以上のビザの有効を証明しなければなりません。
—ユーコン準州で永住権をサポートするPNP(ユーコンノミニー)では、永住権申請中に発給されるワークビザが基本的に一年単位でしか発行されないのが現状ですが、ユーコンに長く住もうと考えている方の中には早く家を買いたいと思っている人も少なくないかもしれません。それを聞いて購入を前提に家を探してみようという人が増えるかもしれません。
美和さん)
ただ、2年のクレジットスコアと履歴は必要です。これは個人がクレジットカードローンや携帯電話などの月々の支払いをどのように返済したかを点数化したものです。カナダに移住し、将来は家を持ちたいと思ったらすぐに2種類のクレジットカード、またはチャージカード(スーパーストアなどのお店が発行するカード)を申請しましょう。現金や銀行のデビットカードで支払いを済ませていると、クレジットレポートの履歴が残りません。またクレジットカードは利用可能枠が少額過ぎると考慮に値しないので、最低でも$3000くらいあることが望ましいです。利用額は最大利用可能枠の半分くらいに留め、必ず期日までに支払いを済ませることによって信用点数が高くなります。
また参考までに1,000,000ドル以上の物件や投資用物件のご購入をご検討の方は、頭金として最低20%が必要となります。さらに購入したい物件がコンドミニアムの場合25%~35%の頭金が必要な金融機関もあります。
—やはり状況によって様々な違いがあるのと同時に、お金以外の面でも計画的に準備を進めなくてはならないということですね。ではいよいよ頭金を用意する上で知っておきたい注意点や準備しておくべきことを具体的にお伺いしていこうと思います。
美和さん)
頭金の証明として3ヶ月分の銀行残高明細書(Bank Statements)や、投資会社から半年おきに送られてくるステイトメントが必要となります。この時注意しなくてはいけないのが、現金は頭金に使えないということです。現金を頭金にしたい場合は収入証明提出の3カ月前までに銀行に預金しておきましょう。
ー大きな買い物ということもあり計画性が大事になってきますね。
美和さん)
また現金が頭金として使用できないということのほかに注意しなくてはいけないのが、購入者は不動産登記の書き換え等に必要となる弁護士料も必要となります。頭金のほかにこれらのクロージングコストも残高証明に含まれていることも忘れてはいけないポイントです。
ー確かに!家を購入するためには様々な法的手続きやそれに伴う経費も発生するということですね。
美和さん)
そうですね。そのため頭金が20%に満たない場合は、クロージングコストとして購入価格の1.5%を預金残高に残してある証明が必要となります。例えば、購入価格が$500,000の場合、銀行の残高証明に頭金を除き$7,500残しておく必要があります。
ーなるほど。頭金やその他の費用を日本から送る(送ってもらう)場合に注意すべき点はありますか?
美和さん)
頭金が近親者からの贈与金の場合、各金融機関指定の贈与証明書(ギフトレター)に送り主からのサインが必要です。銀行からの送金証明、入金証明、また送金されてからカナダの銀行に30日間預金されている残高証明が必要となります。自営業のビジネス収入を計算に使うStated Income Programの場合は、贈与の頭金は認められません。レンタル物件の頭金も贈与金は使えません。もしご両親から貰う場合は90日以上前にご自身のカナダの口座に入金しておけば、上記の証明は必要ありません。
ー経済的にもですが、時間的にもしっかりと余裕を持って準備することが必要ですね。
美和さん)
また先ほどお話しした弁護士費用の他にも下記のような諸経費がかかります。住宅購入にかかる諸経費は、物件購入の地域、物件の金額とサイズ、一軒家もしくはコンドミニアムかなどの物件のタイプ、通常よりも時間がかかる頭金(ファーストホームバイヤーインセンティブ制度を使うか)にもよりますが、一般的な例は下記の通りとなります。
・不動産弁護士料(抵当権設定にかかる登録料、その他諸経費を含む)約$1,000 ~ $1,700
・ホームインスペクション料 約400 ~ $800
・保証料を払わない場合(頭金が20%以上)は、家の査定料(Appraisal) 約$270 ~ $700
・タイトルインシュランス料(登記に関する保証料。金融機関によって必要) 約$300
ー普段の生活ではなかなか考えもつかないような諸経費があるのでとても参考になりました。ここまで頭金やその他諸経費のことについて教えていただきましたが、次は具体的にモゲージを組むために必要なことについて伺っていきたいと思います。
ここからが本題!ローン審査
ーまずローン審査について押さえておきたいポイントを教えていただけますか?
美和さん)
重要なのは、・カナダ歳入庁(Canada Revenue Agency:通称CRA)に申告している総合収入(Notice of Assessment Line 150 Total Income)の金額。・頭金の証明は、マネーロンダリング(資金洗浄)対策に非常に厳しくなっています。現金は頭金に使えません。海外からの贈与金や、自身の貯金の送金に関しても、英語で様々な書類を提出しなければいけないので、オファーする3カ月前にカナダの銀行に入金しておくと、自分の貯金として提出出来ます。・信用点数(クレジットスコア)のレポートに記載されている信用点数、負債、負債の返済履歴、遅延の有無。
の3点です。
ー収入や先ほどお話いただいた頭金等がきちんと証明できること、そしてクレジットスコアが重要となってくるのですね。では例えばこれらがしっかりしていてもローン審査が通りにくい例などはありますか?
美和さん)
例えば以下のような場合、ローン審査に影響する可能性があります。・季節労働者。ただし2年の平均収入と同じ雇用主からの雇用証明書に労働時間の保障・約束の記載があれば、申請に通る可能性もあります。・節税し、確定申告で収入額を低く申告している自営業者。・離婚後、高い養育費・配偶者サポートを支払っている。・不動産物件をすでに沢山持っていて、収入よりコストの方が大きい場合。・破産宣告をしたことがある。破産宣告をして2年以上経ち、信用点数が回復していれば、モゲージを組む事は可能です。・クレジットカード、電話の滞納は信用点数に直結します。特に気を付けたいのは、何かの問題があり支払い交渉が決裂し相手がWaive(破棄)して支払免除になった場合でも、例え少額でも点数を下げてしまい、結果的には良い金利が得られず損する事になる場合があります。よくあるケースが、親族のコサイナー(保証人)となり、その方が滞納しコサイナーに請求が来る場合です。近年、詐欺電話があまりにも多く、これも詐欺かと思いきや本当の催促で、信用点数が知らない間に下がり融資がおりないケースもあります。
ーユーコンでは鉱物関係や観光業の分野で季節労働者が滞在していることも多いので、そういった場合は特に注意が必要ですね。その他、例えば日本ように勤続年数などはポイントになったりしますか?
美和さん)
転職しながらキャリアアップが常識的なカナダ。プロべ―ション(試用期間)さえ終えていれば、最短3カ月の勤続があれば大丈夫です。前職が同じ業種なら尚良いでしょう。ただ、申請書には過去3年の就業履歴を記載する必要がありますので、同じ仕事をしている方が安定した収入があると見なされます。
—一概に転職と言ってもキャリアアップのためかどうかなどはある程度審査の基準となってくる訳ですね。またユーコンのような季節労働者や観光業の盛んな地域の物件にありがちな注意点はありますか?
美和さん)
すべての物件に対して融資をしてもらえるとは限りません。特にユーコン準州でも注意が必要なのが、*Bedroom Communityと呼ばれる、ホワイトホース中心部のまわりにあるコミュニティや、Condominium Hotelのようにホテルとコンドが合体したビル内のコンド、Rental Pool(複数の投資家が投資したお金でエージェントがレンタルアパートメントを運営し、投資家達が利益や損失を分け合うシステム)と呼ばれるレンタル専用のコンドには、融資をしない金融機関が沢山あります。アルバータ州の場合、キャンモアなどでは手頃な金額のコンドが売りに出されると、実はどこも融資してくれないレンタルプールというケースが多々あります。*Bedroom Community: a small community that has no major industries and that is lived in by people who go to another town or city to work. They live in a bedroom community just outside of the city.
—そのような物件があるというのは知りませんでした。居住用と商業用の物件が区別されているように、居住用の物件の中でも様々な区別があり融資の対象となるかどうかが変わってくるということですね。
簡単にわかる!借入可能金額の目安
ここまで頭金のことやモゲージ申請に必要となる収入のことなどについてお伺いしてきましたが、今回の記事の最後に参考までに具体的にどれくらい借り入れが出来るのかということを伺いたいと思います。
ーずばり、収入別に大体の借入可能額を伺うことはできますか?
美和さん)
住宅ローンの借り入れ額は、ベンチマーク金利、頭金、保証料の有無、コンド料の有無、負債額によって変わってきます。
プロべ―ションを終え(勤務半年以上)、毎月定収入があり、雇用証明書でフルタイム時間保障の記載があり(35~40時間)、信用点数が良く、車等の負債が無く、コンド料が無い場合、2019年10月のベンチマークでは
30,000ドル→$140,000
50,000ドル→$232,000
70,000ドル→$325,000
となっています。
目安は、年収x10÷2よりやや少ない位が最大融資額と考えると分かりやすいです。
ー年収×10÷2というのはとてもわかりやすい計算式ですね。この借入金額についてですが例えば同じ収入でも職種によって借り入れが出来る金額が変わるということはありますか?というのも、ユーコンは政府職に就かれている方が非常に多いため(割合では2人に1人)気になりました。
美和さん)
年収の証明が認可されれば、職種は関係ありません。通常、T4のエンプロイメントインカムに$50,000とあり、税金申告の際に$50,000を総合収入と申告していれば、職種が違っても借入額は同じです。しかし、コミッション100%の営業職の場合は、$50,000稼いでいても経費計上し申告額は低くしている事があります。その場合は借入額が低くなる可能性が高いです。
ー本日は長い時間ありがとうございました。今回は家の購入を考える前に知っておくべき、お金(住宅ローン)のことについて色々と勉強させていただきました。ユーコンには日本からの移住希望者も増えてきており、ここで様々なライフイベントを迎える家族も増えてきている印象です。カナダ国内で日本語によるこう言った相談ができるというのは、私たち日本人にとっても心強い限りです。普段はアルバータ州で活躍されている美和さんですがここユーコンでの住宅ローンにも対応して頂けるとのことですので住宅購入を検討している方は是非一度相談されてみてはいかがでしょうか。
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